最終更新日:2026年8月29日
小規模企業共済、掛金が全額控除って聞いたので入ろうと思うんですが…デメリットってあるんですか?
あります。しかも運営している中小機構が、自分のサイトで3つ挙げています。隠されているわけではなく、読まずに入る人が多いだけです。数字で見ましょう。
小規模企業共済は、国の機関である中小機構が運営する、小規模企業の経営者・役員・個人事業主のための積み立てによる退職金制度です。加入者は約162万人(令和5年3月末現在)。掛金が全額所得控除になることから、個人事業主の節税策として定番になっています。
この記事では、中小機構の公式サイトに書かれている数字だけを使ってデメリットを整理します。そのうえで、他の記事があまり触れていない「20年払っても元本割れすることがある」という公式の注記と、ソロ節約ラボとして必ず言っておきたい「掛金を払っても国民健康保険料は1円も下がらない」という話をします。
- 公式が挙げるデメリットは3つ。12か月未満の解約は掛け捨て/240か月(20年)未満の任意解約は元本割れ/受取時に課税
- 掛金月1万円なら、5年で解約すると12万円、10年でも18万円の元本割れ(公式の受取例)
- 「20年払えば安全」は正確ではない。掛金を途中で増減すると、掛金区分ごとに240か月を数え直す
- 掛金は所得控除だが、国民健康保険料の算定には入らない。国保を下げたい人の答えにはならない
公式が自ら挙げているデメリットは3つ
中小機構は公式サイトの解説ページで、注意点として次の3つを挙げています。
- 加入期間が12か月未満で任意解約すると掛け捨てになる
- 掛金納付月数が240か月未満で任意解約すると、掛金合計額を下回る
- 共済金受給時に課税される
公式はこの3つに対して「掛金は月額1,000円からなので、無理のない額に設定して継続すれば回避できる」という趣旨の説明を添えています。ただし、その回避策そのものに落とし穴があります。後述します。
デメリット1: 掛け捨てになるラインは「種類ごとに違う」
「12か月未満は掛け捨て」とよく書かれますが、正確には受け取るお金の種類によってラインが違います。公式の記載はこうです。
- 共済金A・共済金B: 請求事由が生じた時点で掛金納付月数が6か月未満なら受け取れず、掛け捨て
- 準共済金: 請求事由が生じた時点で12か月未満なら受け取れず、掛け捨て
- 解約手当金: 解約時点で12か月未満なら受け取れず、掛け捨て
個人事業主の場合、共済金Aは廃業したときや契約者が亡くなったとき、共済金Bは65歳以上で180か月以上払い込んだ場合の老齢給付、準共済金は法人成りして加入資格がなくなったとき、解約手当金は自分の意思で解約した任意解約のときに受け取るものです。
つまり廃業や死亡(共済金A・B)なら6か月で受け取れる一方、自分から解約する場合は12か月必要ということになります。「1年未満は全部ゼロ」ではありません。
6か月と12か月、こんがらがってきました…。
ざっくり「自分からやめるなら12か月、事業をたたむなら6か月」と覚えてください。制度側は、やむを得ない事情には短い期間で応じて、自己都合には厳しくなっている、という設計です。
デメリット2: 20年未満の任意解約は、いくら損をするのか
ここがいちばん実害のある部分です。解約手当金の額は、掛金の納付月数に応じて納付した掛金の80%から120%に相当する額と公式に定められています。そして100%以上になるのは掛金納付月数が240か月(20年)以上からです。
公式が出している受取例(掛金月額1万円・平成16年4月以降の加入者)を、差額を計算して並べます。
| 納付年数 | 掛金合計額 | 解約手当金 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 5年 | 600,000円 | 480,000円 | -120,000円 |
| 10年 | 1,200,000円 | 1,020,000円 | -180,000円 |
| 15年 | 1,800,000円 | 1,665,000円 | -135,000円 |
| 20年 | 2,400,000円 | 2,400,000円 | ±0円 |
注目してほしいのは10年時点がいちばん損が大きいことです。5年でやめれば12万円の損ですが、10年続けてからやめると18万円の損になります。「途中まで払ったぶんは戻る」という感覚でいると、金額の大きさで驚くことになります。
なお解約手当金には、共済金A・Bに付く付加共済金の加算がありません。運用実績が良かった年でも上乗せは無い、ということです。

じゃあ20年払い切れば大丈夫ってことですね。安心しました。
そこが違うんです。公式の注記に「加入期間が240か月以上でも元本割れすることがある」と書いてあります。しかも、その原因は公式が勧めている回避策そのものです。
「20年払えば安全」は正確ではない
公式サイトの解約手当金の説明には、次の注記があります。
加入期間が240か月以上でも、途中で掛金を増額・減額した場合で、掛金区分ごとの掛金納付月数が240か月を下回ったときは、任意解約した場合に受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回ることがあります。
※ 掛金納付月数は掛金月額500円を1口とした掛金区分ごとに数えます。
これは重要な仕組みです。掛金納付月数は契約全体で数えるのではなく、500円を1口とした「口」ごとに数えます。
たとえば月1万円(20口)で15年払った人が、収入が増えたので月3万円(60口)に増額し、そこから5年払ったとします。契約としては20年ですが、あとから増やした40口ぶんの納付月数は5年(60か月)です。この状態で任意解約すると、増額分は240か月に届いていないため元本割れの対象になります。
皮肉なのは、公式が掛け捨てや滞納の回避策として「掛金を減額して続けること」を勧めている点です。減額そのものは制度上まったく問題ありませんが、任意解約する可能性がある人にとっては、増減が元本割れの引き金になり得るということは知っておく必要があります。
逆に言えば、廃業まで持ち切る(共済金Aを受け取る)つもりなら、この論点は関係ありません。元本割れは任意解約と機構解約の話であり、廃業・死亡・老齢給付で受け取る共済金は元本割れしないと公式に明記されています。
増額しないほうがいいってことですか?
いえ、持ち切るなら増額して問題ありません。効いてくるのは任意解約したときだけです。ただ「途中でやめるかもしれない」と思っているなら、増額は慎重にしたほうがいいですね。
デメリット3: 受け取り方で税金の扱いが変わる
共済金を受け取るときには課税されます。ただし扱いは受け取り方によって大きく違います。
- 一括受取り → 退職所得扱い
- 分割受取り → 公的年金等の雑所得扱い
- 併用 → 一括分が退職所得、分割分が公的年金等の雑所得
- 任意解約:65歳以上なら退職所得扱い、65歳未満なら一時所得扱い
- 機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合)→ 一時所得扱い
ここでも任意解約が不利です。65歳未満での任意解約は一時所得になり、退職所得控除は使えません。元本割れに加えて税制上の優遇も薄くなる、という二重の不利になります。
元本割れした上に税金でも不利って、なかなかきついですね。
そうなんです。だからデメリットは全部「途中でやめる」ことに集約されていると考えてください。裏を返せば、持ち切る前提なら心配する話ではありません。
また、分割受取りを選ぶには次の4つをすべて満たす必要があります。
- 共済金Aまたは共済金Bであること
- 請求事由が共済契約者の死亡ではないこと
- 請求事由が発生した日に60歳以上であること
- 受取額が分割は300万円以上(一括と分割の併用は330万円以上。内訳は一括30万円以上+分割300万円以上)
準共済金と解約手当金はこの要件を満たさないため、一括受取りのみです。分割で年金のように受け取る設計を考えている人は、そもそも共済金A・Bで受け取れる出口(廃業・老齢給付)を前提にする必要があります。
掛金が全額所得控除になるなら、国保も安くなりますよね?
そこが一番多い誤解です。下がりません。所得税と住民税は下がりますが、国保料の計算にはこの控除が入らないんです。
掛金を払っても、国民健康保険料は1円も下がらない
ここからはソロ節約ラボとして必ず言っておきたい話です。
小規模企業共済の掛金は、確定申告で「小規模企業共済等掛金控除」として全額が所得控除になります。これは事実です。ただし国民健康保険料の算定には、この所得控除は入りません。
国保料は総所得金額等から基礎控除を引いた額をもとに計算されるため、生命保険料控除や小規模企業共済等掛金控除のような所得控除を積んでも、保険料は変わりません。「節税になるなら国保も安くなるだろう」と考えて加入すると、期待が外れます。
この論点は iDeCo・小規模企業共済・ふるさと納税で「節税」しても国保は1円も下がらない で詳しく書いています。国保まで下げたい場合に効くのは所得控除ではなく必要経費で、その線引きは 個人事業主の経費はぶっちゃけどこまで? にまとめました。国保料そのものを下げたい場合の手段は別にあるので、目的を取り違えないでください。
デメリットばかり聞くと不安になってきました。結局、入らないほうがいいんですか?
そうではありません。デメリットは全部「途中でやめる」ことに集中しています。廃業まで持つつもりで、無理のない額から始めるなら、条件は良い制度です。
それでも入る価値があるのは、どういう人か
ここまで挙げたデメリットは、ほぼすべてが任意解約と機構解約に紐づいています。裏を返せば、持ち切る前提なら条件はかなり良い制度です。公式に書かれているメリットを整理します。
- 掛金は月額1,000円〜70,000円、500円単位で自由に設定でき、加入後も増減できる。前納した1年以内の掛金も控除対象
- 廃業・死亡なら6か月で共済金A・Bを受け取れる。掛金月1万円・20年で共済金Aは2,786,400円(掛金合計240万円)
- 運用実績に応じた付加共済金があれば、基本共済金に加算される(解約手当金には加算なし)
- 掛金の範囲内で貸付制度を使える。一般貸付けは掛金の7〜9割の範囲で10万円〜2,000万円を年1.5%、緊急経営安定や傷病災害時などの貸付けは50万円〜1,000万円を年0.9%
とくに貸付制度は見落とされがちです。事業資金が必要になったときに、解約せずに低金利で借りられる出口があるということは、「掛けたお金が完全にロックされるわけではない」ことを意味します。資金繰りが不安だから加入をためらうという人は、解約ではなく貸付という選択肢があることを知っておくと判断が変わります。
逆に、次のような人は慎重に考えたほうがよいと思います。
- 数年以内に事業をたたむか、法人成りする可能性が高い
- 掛金を払うと生活が苦しく、滞納しそう(12か月以上の滞納は機構解約になり、一時所得扱い)
- 国民健康保険料を下げる目的で検討している(前述のとおり下がりません)
節税策全体の中での位置づけは 個人事業主の節税対策 完全ガイド【2026年版】、iDeCoとの使い分けは iDeCo×小規模企業共済 徹底比較 にまとめています。
そして、国民健康保険料そのものが高すぎて困っているのであれば、所得控除を積むのではなく保険料の計算式そのものを変える方法を先に検討したほうが効きます。国保が高すぎる!年収別シミュレーション&保険料を安くする7つの方法 で試算しています。
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よくある質問
Q1. 掛金を減額すると元本割れするのですか?
減額そのものが元本割れを起こすわけではありません。問題になるのは任意解約するときです。掛金納付月数は掛金月額500円を1口とした掛金区分ごとに数えるため、途中で増額・減額すると、その口の納付月数が240か月に届かないことがあります。廃業や老齢給付で共済金を受け取る場合は元本割れしません。
Q2. いちばん損をするのは何年でやめたときですか?
公式の受取例(掛金月額1万円)では、10年で解約したときの-180,000円が最大です。5年は-120,000円、15年は-135,000円で、20年でちょうど掛金合計額と同額になります。金額の差なので、掛金が大きいほど損失額も大きくなります。
Q3. 1年未満でやめると全額捨てることになりますか?
解約手当金は掛金納付月数が12か月未満だと受け取れず、掛け捨てになります。ただし共済金A・Bは6か月以上納付していれば受け取れます。廃業や死亡の場合は6か月、自分から解約する場合は12か月、と覚えてください。
Q4. 掛金を払えば国民健康保険料も安くなりますか?
安くなりません。小規模企業共済等掛金控除は所得税・住民税の計算では効きますが、国民健康保険料の算定には所得控除が入らないためです。国保料を下げることが目的なら、別の方法を検討してください。
Q5. 途中でお金が必要になったら解約するしかありませんか?
貸付制度があります。一般貸付けは掛金の範囲内(掛金の7〜9割)で10万円以上2,000万円以内を5万円単位、利率は年1.5%。緊急経営安定貸付けや傷病災害時貸付けなどは50万円以上1,000万円以内で年0.9%です。元本割れする任意解約より先に、こちらを検討してください。
Q6. 分割で年金のように受け取れますか?
条件を満たせば可能です。共済金AまたはBであること、請求事由が死亡でないこと、請求事由の発生日に60歳以上であること、受取額が分割300万円以上(一括と併用なら330万円以上)の4つをすべて満たす必要があります。準共済金と解約手当金は一括受取りのみです。
まとめ
小規模企業共済のデメリットは、中小機構が公式に3つ挙げています。12か月未満の解約は掛け捨て、240か月未満の任意解約は元本割れ、受取時に課税。掛金月1万円なら5年で12万円、10年で18万円の元本割れです。
そして「20年払えば安全」は正確ではありません。掛金納付月数は500円を1口とした掛金区分ごとに数えるため、途中で増減した口は240か月に届かないことがあります。公式が回避策として勧めている「減額して続ける」と表裏の関係にある注意点です。
ただし、これらはすべて途中でやめる場合の話です。廃業まで持ち切る前提なら、全額所得控除・年0.9〜1.5%の貸付制度・退職所得扱いという条件は十分に良い制度だと思います。
最後にもう一度書いておきます。掛金をいくら積んでも、国民健康保険料は1円も下がりません。国保が高くて困っているなら、所得控除を積む前に、保険料の計算式そのものを変える方法を検討してください。
※ この記事の数値は2026年8月29日時点で中小機構の公式サイトに掲載されているものです。制度は改正されることがあるため、加入・解約の判断は必ず公式サイトおよび委託機関でご確認ください。税務の個別判断は税理士にご相談ください。



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