最終更新日:2026年8月1日
この記事のスタンス
制度の根拠は、すべて e-Gov 法令検索(デジタル庁)で条文原文を確認して書いています。数字や仕組みは「なんとなくお得」ではなく、条文と公表料率に基づいて説明します。個別の判断は税理士・社労士にご相談ください。
この記事で分かること
- フリーランス(国保・国民年金)と法人化後(社保)で、負担の構造がどう変わるのか
- 「1人社長でも社保に入れる」の法的な根拠
- 社会保険料が節税につながる仕組み(所得控除)の条文根拠
- 傷病手当金「給与の約3分の2」「通算1年6ヶ月」の正確な中身
- 2026年度の料率で計算した、役員報酬額別・事業所得別の実数比較
1. なぜフリーランスは負担が重く感じるのか
会社員の頃より、税金と保険料がずっと重く感じるんですが…気のせいですか?
気のせいではありません。負担の「構造」が違うんです。まずそこから整理しましょう。
フリーランス(個人事業主)が自分で払うのは、主に次のもの。
- 国民健康保険料(前年所得ベース)
- 国民年金保険料
- 所得税・住民税・個人事業税
このうち国民年金は、被保険者として負担する保険料が 所得税法上の社会保険料控除の対象 になります(後述)。ただし将来もらえるのは老齢基礎年金のみで、厚生年金部分の上乗せはありません。この「上乗せがない」ことが老後にどれだけ効いてくるかは 個人事業主の老後シミュレーション で試算しています。
年収帯ごとにどの選択肢が有利かを俯瞰したい場合は 年収別・個人事業主の社会保険戦略マップ もあわせてどうぞ。
2. 「1人社長でも社会保険に入れる」の法的根拠
従業員ゼロの1人社長でも、本当に社会保険に入れるんですか?
入れます。というより法人は人数に関係なく強制適用です。条文で確認しましょう。
フリーランスが法人(マイクロ法人など)を設立して自分に役員報酬を払うと、その法人は健康保険・厚生年金の 強制適用事業所 になります。根拠は健康保険法3条3項。
健康保険法 第3条第3項(定義)
「この法律において『適用事業所』とは、次の各号のいずれかに該当する事業所をいう。
一 次に掲げる事業の事業所であって、常時五人以上の従業員を使用するもの
二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの」
出典:e-Gov法令検索 健康保険法
ポイントは、1号(一定業種で常時5人以上)とは別に、2号で「法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの」は人数を問わず適用事業所 になること。つまり社長1人だけの法人でも、役員報酬を払っていれば健康保険・厚生年金の適用対象になります。これが「フリーランスのまま社保」と呼ばれる仕組みの正体です。
3. 社会保険料が「節税」になる仕組み
保険料を払うのに節税になるって、どういうことですか?
払った保険料が全額所得控除になる仕組みです。条文の根拠つきで解説しますね。
社会保険料は、支払った全額がその年の所得から控除されます(社会保険料控除)。
所得税法 第74条第1項(社会保険料控除)
「居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合又は給与から控除される場合には、その支払つた金額又はその控除される金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。」
同条2項が対象を列挙しており、一 健康保険の保険料、二 国民健康保険の保険料又は国民健康保険税、五 国民年金の保険料、七 厚生年金保険の保険料 などが含まれます。
出典:e-Gov法令検索 所得税法
医療費控除などと違って足切り(下限額)がなく、支払った社会保険料は1円目から全額が所得控除される点が大きい。控除が増えれば課税所得が下がり、所得税・住民税が下がります。「保険料を払うこと自体が節税になる」と言われるのはこの条文が根拠です。
逆に注意したいのが、iDeCoや小規模企業共済のような所得控除は、国民健康保険料の計算には効かないという点。国保料の算定基礎(旧ただし書所得)は基礎控除43万円を引くだけで、他の所得控除を差し引かないためです。詳しくは 「節税しても国保は1円も下がらない」 にまとめています。
なお法人化した場合、自分への役員報酬は法人にとっての損金(費用)になり、受け取る側では給与所得(所得税法28条)として給与所得控除を使えます。給与所得控除額は同条3項に金額が定められており、収入190万円以下なら65万円、850万円超なら195万円が上限です。「個人事業の所得」を「法人からの給与」に組み替えることで、給与所得控除と社会保険料控除の両方が効く——ここが法人化スキームの節税の中心です。
4. 傷病手当金「約3分の2」「通算1年6ヶ月」の正確な中身
働けなくなったときの傷病手当金。国保にはなく、健康保険(社保)の被保険者だけが受けられます。金額も期間も、条文に具体的な数字が書かれています。
健康保険法 第99条第1項(傷病手当金)
「被保険者(任意継続被保険者を除く。略)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。」
同 第2項(金額)
「傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額(略)を平均した額の三十分の一に相当する額(略)の三分の二に相当する金額(略)とする。」
同 第4項(支給期間)
「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。」
出典:e-Gov法令検索 健康保険法
読み落としやすいのは次の3点です。
- 待期3日は自動ではない。「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」——つまり支給が始まるのは4日目からで、最初の3日分は出ません。
- 「約3分の2」の分母は日給ではなく標準報酬月額。直近12ヶ月の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2です。実際の日給ではないので、報酬の設定額がそのまま保障額に直結します。
- 1年6ヶ月は「通算」。2022年1月施行の改正で、連続した1年6ヶ月ではなく、支給を受けた日を通算して1年6ヶ月に変わりました。途中で復職した期間はカウントされないため、復職と休職を繰り返すケースで有利になっています。
任意継続被保険者は1項の括弧書きで対象から除かれている点にも注意。退職直後の選択肢を比較したい場合は 任意継続 vs 国保 vs 社保の3択比較 を参照してください。
5. 実数で見る:いくら払うことになるのか
理屈は分かったので、実際の金額が知りたいです!
2026年度の公表料率で、役員報酬別と事業所得別の実数を並べて比較します。
ここまでが制度の話。次は2026年度(令和8年度)の公表料率で実際に計算します。前提は 東京都・協会けんぽ・40歳未満(介護保険第2号被保険者でない)・単身。40歳以上は介護保険料率1.62%が上乗せされます。
5-1. 法人化して役員報酬を払う場合
2026年度の料率は3本立てです。東京都の健康保険料率が 9.85%、そこに全国一律の 子ども・子育て支援金率0.23% が別建てで加わり、厚生年金保険料率は 18.3%。健康保険料率と支援金率は協会けんぽの保険料額表でも別の列になっており、「健康保険料率10.08%」という料率が存在するわけではありません。ただし給与から引かれる額としては合わせて標準報酬月額の10.08%になります。いずれも労使折半で、1人社長の場合は法人負担分も実質自分の財布から出ます。
| 役員報酬(月額) | 標準報酬月額 | 健康保険+子ども・子育て支援金(月・労使計) | 厚生年金(月・労使計) | 年間合計(労使計) | うち本人負担(年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 98,000円 | 9,878円 | 17,934円 | 333,749円 | 166,874円 |
| 20万円 | 200,000円 | 20,160円 | 36,600円 | 681,120円 | 340,560円 |
| 45万円 | 440,000円 | 44,352円 | 80,520円 | 1,498,464円 | 749,232円 |
| 80万円 | 790,000円 (厚年は上限65万円) |
79,632円 | 118,950円 | 2,382,984円 | 1,191,492円 |
厚生年金の標準報酬月額には上限があり、2026年度時点では65万円。報酬を80万円に上げても厚生年金保険料はそれ以上増えません(=将来の年金額も増えません)。ただしこの上限は2025年成立の年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と段階的に引き上げられます。詳細は 厚生年金の上限引き上げ解説 に整理しています。
5-2. 個人事業のままの場合
比較対象として、令和8年度の特別区基準保険料率で国民健康保険料を計算します。医療分(基礎分)7.51%+均等割47,600円、後期高齢者支援金分2.80%+17,600円、令和8年度に新設された子ども・子育て支援金分0.27%+均等割1,873円(18歳以上。18歳未満は均等割0円)。算定基礎は旧ただし書所得=「事業所得 − 基礎控除43万円」です。国民年金保険料は月17,920円(12ヶ月で215,040円)。
なお「23区は保険料が同じ」とよく言われますが、正確には23区中20区がこの基準保険料率を採用しているだけで、中野区・江戸川区は独自料率、目黒区は介護分の所得割率が独自です。以下の表は基準保険料率を採用している区の数値です。
| 事業所得 | 国民健康保険料(年) | 国民年金保険料(年) | 合計(年) |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 338,979円 | 215,040円 | 554,019円 |
| 600万円 | 656,379円 | 215,040円 | 871,419円 |
| 900万円 | 952,572円 | 215,040円 | 1,167,612円 |
事業所得900万円のケースでは、医療分が賦課限度額67万円に到達しています。国保には医療分67万円・支援金分26万円・子育て支援金分3万円という上限があり、所得がそれ以上増えても保険料は頭打ちになります。
5-3. この2つの表の読み方
2つの表を単純に横並びで比べるのは危険です。理由は次のとおり。
- 法人化後の保険料は「役員報酬」で決まり、事業の利益では決まらない。利益600万円でも役員報酬を月10万円に設定すれば、社会保険料は年33万円台。残りは法人に留保され法人税の対象になります。この設計の自由度が法人化の本質です。
- ただし報酬を下げれば保障も下がる。傷病手当金も厚生年金も標準報酬月額に連動するため、報酬を絞るほど休業補償と将来の年金が薄くなります。
- 法人側のコストが別途かかる。法人住民税の均等割は所得に関係なく定額で課され、赤字でも発生します。東京23区内のみに事務所がある資本金等1,000万円以下の法人なら都民税均等割として年70,000円(地方税法734条3項)。ほかに設立費用、税理士報酬、社会保険の事務手続きの負担もあり、いずれも表には含まれていません。
つまり「保険料が安くなるか」ではなく「保険料・税・保障・手間の合計をどこで最適化するか」という設計問題です。
6. まとめ:構造で理解する
つまり、法人化するかどうかは何で判断すればいいんでしょう?
「報酬設計の自由度が要るか」で判断するのがシンプルです。最後に整理しましょう。
| 項目 | フリーランス(国保・国年) | 法人化後(社保) | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 加入根拠 | 国民健康保険法・国民年金法 | 健康保険法3条3項2号(法人は人数不問で適用) | 健保法3③ |
| 保険料の決まり方 | 前年所得に連動 | 役員報酬(標準報酬月額)に連動 | 健保法40 ほか |
| 保険料の所得控除 | あり(社会保険料控除) | あり(社会保険料控除) | 所法74 |
| 傷病手当金 | なし | あり(標準報酬日額の約2/3、待期3日、通算1年6月) | 健保法99①②④ |
| 老後年金の上乗せ | なし(基礎年金のみ) | あり(厚生年金) | 厚年法 |
| 報酬の扱い | 事業所得 | 給与所得(給与所得控除が使える) | 所法28 |
※金額の有利・不利は役員報酬の設定額・家族構成・自治体で変わります。試算は必ず個別に。
住宅ローン、出産、親の扶養といったライフイベント単位で整理したい場合は フリーランスのライフイベント完全マップ が全体像の把握に使えます。
よくある質問
Q1. 従業員ゼロの1人社長でも社会保険への加入は義務ですか?
はい。法人は人数に関係なく健康保険・厚生年金の強制適用事業所です(健康保険法3条3項2号)。役員報酬が支払われていれば加入義務があります。
Q2. 役員報酬はいくらに設定すればいいですか?
正解は一つではありません。報酬を下げれば保険料は下がりますが、傷病手当金や将来の厚生年金など、標準報酬月額に連動する保障も下がります。事業の利益・必要な生活費・保障のバランスで決め、税理士・社労士への相談をおすすめします。
Q3. 役員報酬を低く設定するマイクロ法人は違法ではないのですか?
法人としての実態があり、実際に事業と報酬支払いが行われていれば、報酬額の設定自体は経営判断の範囲です。ただし実態のないペーパー法人や虚偽の届出はリスクがあります。2026年3月18日の厚労省通達(保保発0318第1号)も、形態ではなく実態で判断する運用を示しています。
Q4. 法人化せずに厚生年金に入る方法はありますか?
あります。従業員として雇用されて社会保険に加入する方法(従業員型の社保加入サービス等)です。法人設立・維持のコストや事務負担なしで健康保険+厚生年金に加入できます。詳しくは本文末尾の比較記事をご覧ください。
Q5. 傷病手当金はいつから・いくらもらえますか?
連続3日の待期期間の後、4日目から支給され、金額は標準報酬日額の約3分の2、期間は支給開始から通算1年6ヶ月です(健康保険法99条)。標準報酬月額を低く設定していると受給額も少なくなる点に注意してください。
自分の場合はどうなるか
制度の全体像は以上のとおりですが、「自分の場合いくら変わるか」「役員報酬をいくらに設定すべきか」は所得・家族構成・自治体で答えが変わります。
法人設立せずに社会保険へ切り替える選択肢もあり、ソロコンシェルジュはその一つです。実際の無料相談で何を聞かれるかは 相談レポート に、サービス全体の分類は 社会保険サービス比較完全マップ にまとめています。
この記事の執筆方針と免責
- 制度の根拠となる条文は、すべて e-Gov 法令検索(デジタル庁)で原文を確認して引用しています。
- 保険料率・保険料額は2026年度(令和8年度)の公表値を使用しています。料率は年度ごとに改定されるため、閲覧時期によっては最新でない場合があります。
- 試算は東京都・協会けんぽ・特別区基準保険料率・40歳未満・単身という限定的な前提での概算です。実際の保険料・税額は加入する健康保険、自治体、家族構成、他の所得や控除の有無で変わります。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、税務・社会保険の個別具体的な助言ではありません。実際の判断は必ず税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
なお、法人化には設立費用・毎年の維持コスト・事務負担が伴います。「役員報酬の設計までは要らないが、社会保険(健康保険+厚生年金)には入りたい」という方には、法人を作らずに従業員として雇用され社保に加入する方法もあります。負担は定額(実質 月約44,000円)で、比較の考え方はマイクロ法人 vs 社保サービスの徹底比較と現存サービスおすすめランキングにまとめています。ご自身の数字での試算は国保vs社保シミュレーターが便利です。
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