最終更新日:2026年10月21日
妻に手伝ってもらってるので専従者給与を検討してます。所得税の節税になるのは知ってますが、国保も安くなるんですか?
下がる方向に働きます。ただし「軽減判定には一切効かない」という公式ルールの罠があって、ここを知らずに期待すると外します。効く部分と効かない部分を分けて解説しますね。
青色事業専従者給与は「家族への給与を経費にできる」節税の定番ですが、国民健康保険料への効果は説明が雑に流通している領域です。「世帯で分散すれば国保も安くなる」は半分正しく、半分間違い。この記事では国税庁と自治体の公式ルールに基づいて、効く部分・効かない部分・副作用を整理します。
✅ この記事でわかること
- 専従者給与の4要件と届出期限(国税庁公式)
- 国保の所得割が下がる仕組み(各人ごとの控除)
- 7割・5割・2割の軽減判定には効かないという公式ルール
- 配偶者控除が「1円でも払うと」消える正確な条件
- 専従者本人の非課税ライン(2026年の給与から所得税178万円・住民税119万円)
1. 青色専従者給与のおさらい|4要件と期限
国税庁タックスアンサーNo.2075の要件はこの4つです。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者・親族
- その年12月31日時点で15歳以上
- その年を通じて6ヶ月超、その事業に「専ら従事」している
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出済み
届出の期限は、経費算入したい年の3月15日(1月16日以後に開業・新たに専従者ができた場合はその日から2ヶ月以内)。金額は届出の範囲内かつ「労務の対価として相当な金額」まで。過大な部分は経費になりません。
2. 国保の所得割は「下がる方向」に働く
国保の所得割は、世帯の加入者それぞれの前年所得から基礎控除43万円を各人ごとに差し引き、合算した額に料率を掛けて計算されます(自治体公式の賦課ルール)。
ここがポイントで、事業主1人に所得が集中している状態から専従者給与で分散すると:
- 事業主側:専従者給与の分だけ事業所得が減る
- 専従者側:給与所得控除(最低保障額は2025年の給与で65万円、2026・2027年の給与で74万円)と本人分の基礎控除43万円が新たに使える
つまり世帯全体で見ると、賦課ベースの所得が「給与所得控除(最低65万〜74万円)+基礎控除43万円」分だけ圧縮される構造です。所得割率が10%前後の自治体なら、単純計算で年10万円規模が変わり得ます(料率・方式は自治体差が大きいため、実際の額はお住まいの自治体でご確認ください)。
📝 均等割は変わらない
国保には扶養の概念がなく、専従者も元から加入者として均等割を人数分払っています。所得を分散しても均等割は1円も変わりません(国保に扶養がない問題参照)。
3. 最大の罠|7割・5割・2割の「軽減判定」には一切効かない
国保には所得が低い世帯向けの法定軽減(7割・5割・2割)があります。「専従者給与で所得を分散すれば軽減ラインに入れるのでは?」と考えたくなりますが、これは制度上封じられています。
自治体の公式ページ(国民健康保険法施行令ベースの全国共通運用)に明記されています:
- 軽減判定の所得は、事業専従者控除・専従者給与を差し引く前の金額で判定する
- 専従者側に立った給与所得は、軽減判定の総所得金額に算入しない
つまり軽減の判定では「専従者給与を払わなかったことにして」事業主の所得に戻して計算されます。所得割の計算には効くが、軽減の判定には効かない——この非対称が、この制度でいちばん誤解されているポイントです。
「節税テクで軽減も取る」みたいな話をSNSで見た気がしますが…
それは効きません。軽減判定は専従者給与を「なかったこと」にして行う、と施行令ベースで決まっています。iDeCoやふるさと納税が国保に効かないのと同系統の、制度側のガードです。
4. 副作用|配偶者控除は「1円でも払うと」消える
国税庁の条文構造上、配偶者控除の条件は「青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと」です(No.1191)。つまり:
- 専従者給与を年1回・少額でも払えば、金額にかかわらず配偶者控除(38万円)・配偶者特別控除の対象外
- 「届出だけ出して、その年は支払いゼロ」なら控除は使える
一方で、専従者給与を払えば夫の事業所得がその分減るので、所得税・住民税に加えて国保の所得割も下がります。世田谷区の試算では、損得の分かれ目は年20万〜30万円前後でした(第6章)。それより少額だと、配偶者控除を失う分のほうが大きくなります。払うなら控除を上回る金額設計が前提です。
5. 専従者本人の「壁」は2026年時点でこうなっている
| ライン | 金額(給与収入) | 内容 |
|---|---|---|
| 住民税 | 119万円以下 | 非課税(単身・23区など1級地の目安)。2026年の給与にかかる令和9年度分から。給与所得控除の最低74万円+合計所得45万円以下。2025年の給与(令和8年度分)は110万円 |
| 所得税 | 178万円以下 | 非課税。2026年分から(給与所得控除の最低74万円+基礎控除104万円。令和8年12月1日施行の改正後)。2025年分は160万円 |
| 社会保険の130万円 | — | 国保世帯には存在しない。被扶養者制度は会社員の健康保険の仕組みで、国保には扶養の概念自体がない |
💡 「103万円の壁」は専従者には最初から無い
専従者は金額不問で配偶者控除の対象外になるため、「控除が消えるライン」としての103万円(2025年分は123万円、2026年分からは136万円)の壁はそもそも関係ありません。専従者本人に残る壁は「本人の住民税119万円」と「本人の所得税178万円」の2本だけです(2026年の給与から)。※住民税の非課税限度額は自治体の級地区分で異なります。
効く制度と効かない制度が入り混じって、頭が混乱してきました…
大丈夫です、設計の考え方はシンプルです。順番に整理しましょう
6. 結局、いくら払うのが得か|設計の考え方
- 少額なら払わない。専従者給与を払うと配偶者控除(所得税38万円・住民税33万円)を失いますが、夫の事業所得が給与の分だけ減り、所得税・住民税・国保の所得割がまとめて下がります。妻の給与が給与所得控除の範囲内なら、妻の側に税金も国保の所得割もかかりません。このため分かれ目は38万円より低く、世田谷区の試算では年20万〜30万円前後でした(下の例)
- 払うなら「本人の非課税ライン内」が効率的。住民税まで無税にしたいなら年119万円以下、所得税だけ避けるなら178万円以下が目安(2026年の給与から)
- 労務の実態と釣り合う金額に。相場を大きく超える給与は経費否認のリスク(国税庁が「労務の対価として相当」と明記)
- 軽減ライン狙いはしない。第3章の通り制度上効かない
夫の事業所得別に、専従者給与を払った場合と、無給で手伝って配偶者控除を使う場合の世帯の負担(国保・国民年金2人分・夫婦の所得税と住民税)を比べると次のとおりです。
- 夫の事業所得300万円:年12万円払うと23,504円重い/24万円で5,292円軽い/36万円で34,388円軽い(分かれ目は約22万円)
- 夫の事業所得700万円:年12万円払うと65,304円重い/24万円で20,108円重い/36万円で25,488円軽い(分かれ目は約29万円)
試算の条件:東京都世田谷区・夫婦とも40歳未満・子なし・夫は青色申告特別控除65万円・同じ働き方を続けた1年分。国保は令和8年度の料率、所得税は2026年分、住民税は2027年度分(調整控除は省略)。夫の所得税率が高いほど配偶者控除で減る税金が大きいので、分かれ目は上がります。夫の合計所得が489万円前後のときは所得税の基礎控除の段が変わるため、この例と違う結果になります。
なお世帯の保険料そのものを構造から変えたい場合は、社保切替や業種別国保組合という別レイヤーの選択肢もあります。
資格を失った方の手続き(任意継続は退職日の翌日から20日以内)は こちらの記事 にまとめています。
7. よくある質問
Q1. 白色申告の専従者控除でも同じですか?
軽減判定で「控除前の所得」に戻される扱いは白色の事業専従者控除も同じです。控除額は白色は定額(配偶者86万円等)で、届出も不要という違いがあります。
Q2. 専従者給与に給与所得控除は使えますか?
使えます。専従者側では通常の給与所得として扱われ、給与所得控除(2026・2027年分は最低74万円)が適用されます。
Q3. 妻がパートを掛け持ちしていても専従者にできますか?
「その年を通じて6ヶ月超、専ら従事」が要件のため、他に本業がある場合は認められない可能性が高いです。実態で判断されます。
Q4. 専従者給与を払うと国民年金は変わりますか?
変わりません。国保世帯の夫婦はそれぞれ国民年金第1号被保険者のままで、保険料は定額です(付加年金で上乗せは可能)。
8. まとめ
- 専従者給与による所得分散は、国保の所得割には効く(各人ごとの基礎控除43万円+給与所得控除(2026年の給与から最低74万円)が新たに使える)
- ただし7割・5割・2割の軽減判定には一切効かない(控除前の所得で判定する公式ルール)
- 配偶者控除は1円でも払うと金額不問で消える。年20万〜30万円前後より少額なら払わない方が得(世田谷区の試算)
- 専従者本人の壁は住民税119万円・所得税178万円の2本(2026年の給与から)。130万円の壁は国保世帯に存在しない
【免責事項】本記事は2026年10月時点の国税庁タックスアンサー(No.2075・No.1191・No.1199・No.1410。令和8年4月1日現在法令等)、中央区「令和9年度から適用される個人住民税の主な改正」および自治体公式の国民健康保険賦課・軽減基準に基づきます。国保の料率・賦課方式・住民税非課税限度額は自治体により異なります。具体的な金額設計は税理士またはお住まいの自治体にご確認ください。



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